狂い咲き 104 - 狂い咲き

狂い咲き 104

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 彼は私に会いたいと思ってくれているのだろうか。

 

 なに一つ不満がないのに次を考えてしまう。

 子供のような、底のない安らぎを彼に求めている気がしてならない。

 次の勤務、さらに次の勤務と数を重ねるごとに少しずつ自分の中にようやく余裕が生まれてきた。

 はじめてショーケースを担当した時は、ドキドキしたが、ここは専門店ではない。

 ブランド品が「本物か」と聞かれたら小首を傾げる。

 買うお客も値段をみればわかりきったことを聞いてくるが、私はアルバイト。ここは思いっ切り無責任でいられる。

 

 社内恋愛はいいが、「私が彼女だから」

 自慢の彼なのだろう。が、わざわざ言って歩くほどの異性ではない。

「そうなんだ」

 私は満面の笑顔で村上さんにと答えた。私が高瀬さんにまったく興味がないのがわかると安心したのか、私にとても好意的だ。

 

 キスから始まる恋なんて、どこか退屈だ。

 

 

 肌を重ねるほどに、彼でしか満足できない自分がいる。

 

 

 レジは仕事を覚えてしまえば、気があう女の子達とお喋りをしていればいい

 忙しいのは陳列をする正社員。内部に行かない私に派閥は関係がない。

 勤務を終えると私はいつものように小百合さんに「ありがとう」と言う。

 形にできないのが愛情だ。

 夕暮れに照らし出された雑踏が大きな影となって行き来をみせる。

 いつもの場所で彼が待っている。

 笑い慣れていない彼の笑みは、いつだってぎこちない。

「勤務時間を増やそうと思うんだけど」

 彼は歩き出していってしまう。追いかける私に「一緒に暮らさないか」

「明日でいいから隼人の自宅を教えて」私は彼の腕をしっかりと掴む。彼は静かに頷いた。

 私に振り回されてくれる彼と、もう一つの人格。

 彼の足が寂れた雑居ビルの非常階段を上がっていく。

 一抹の不安の中、自らで掴んだ彼の腕を私は離せないでいる。

 朽ち果てた四階建ての雑居ビルの裏側で彼は足を止めた。

 最上階から覗く階下にはひとが歩いている。

 如何わしい雑居ビルの室内に彼は私を引き込もうとしているのだろうか。

 静かに彼は目を閉じている、その目を開いたときもう一人の彼となる。







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