宿カレ・宿カノ 27

宿カレ・宿カノ 27

 数えるほどしかないスマートフォンに登録されている連絡先。結城は北村の名前を見つめていた。

「あれ、部屋間違えちゃったかな」

 わざとらしく大学生風の男二人が勝手に入って来た。

「一人?」

 馴れ馴れしい言い草に結城は苛立った。思わず顔をあげると「なんだ、ババァか。行こうぜ」

 ドアも満足に閉めず男らはでていった。

「なによ」

 好きでババァになったのではない。

 遣る瀬ない思いが思わず涙となって零れ落ちていった。この年になるまで私はなにをしてきたんだろう。

 結城は自責の念に囚われる。いつも笑顔の千春。

 空回りしていた千春の歯車が大きく回りだしていることに結城は気づいている。静まりだした室内にどこからともなく歌声が聞こえてくる。

 こころを開くのが怖かった。

 この先も現実から逃げ出したままでいいのだろうか。偉大な父のお陰で結城は何一つとして不自由な思いをしないでいられた。

 食べていくだけで精一杯だろう千春が実家に仕送りをしている。結城は一度も家にお金をいれたことがない。

 贅沢で彩られた学生時代。

 真正面に父親と向かい合うのが怖くて今まで結城は逃げていた。いつか、このままでは絶対に後悔する日が来る。

 涙を拭うと結城はカクテルをタッチパネルから頼む。

 そのまま、また曲を探し耳を傾ける。今日こそは父と話し合おう。

 運ばれたカクテルを一気に飲み干すと結城は深くソファーに凭れた。

 

 わかってもらえなくてもいい。

 ラストオーダーを聞きに来た店員を合図に結城はカラオケ店から出た。

 朝焼けが眩いまでの未来を投げかけてくれている気がする。

 結城は少し歩いたところで通り過ぎようとするタクシーを止めた。

 

「北村君。休みのところ悪いけど今から来れるかい?」

 夕暮れのしじまに蝉の声が聞こえる季節になっていた。

 敷きっぱなしの布団に横たわりビールを啜っていた北村は稲葉からの着信をとった。

「わかりました」

「いつもの屋台のおでん屋にいるから」

 北村は身支度を整えると出かける。

「千春ちゃん、僕だけど。今日は深夜のアルバイトあるかい?」

「社長。どうしたんですか? なにか不備でもあったんですか?」







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