宿カレ・宿カノ 7

宿カレ・宿カノ 7

「焦っているんじゃないかな」

「結城先輩がですか?」

「うん。結城君はたしか、千春ちゃんより8つか9つ上だと記憶している。両親が勧める縁談にも耳を傾けず。なんていうのかな、意地を張っているのとは少し違うけど絶対に妥協しないんだ。北村君も口数は少ないけど内心、焦っているように感じられる時がある。千春ちゃんもそうだろう? そろそろ夢より現実を考えなくちゃいけない年齢になってきている。ここのアルバイトと深夜のアルバイトを続けながら夢にむかって走り続けるのを僕は反対したりしない。でもね、千春ちゃんには武器がない。あるのは忍耐強い我慢強さだけだ。少し考えてごらん」

「武器ですか?」

 千春は稲葉の問いかけに真剣に考える。しかし、いくら考え込んでも答えがわからない。

「編集長」

 身を乗り出すように千春が稲葉に問いかけた。

「作家の武器は完結した原稿だよ。寝る間を惜しんでいろいろなアイディアを考えるのはいい。でも、小説ってそうじゃないだろう? 僕は作家を志したことはないけど、まだ僕が記事を書いていた頃、思ったことと違うことを書くことがあった。プロットでもいいんだろうが小説を書き上げた時、少し違うなという違和感から不採用になることだってある。だから、アイディアを形にしてごらん。そしたら結城君も少しは考えてくれるかも知れない。もし、誰かに原稿をみせて欲しいと言われたら、千春ちゃん困るだろう? 焦らなくていいんだ。ここにいる皆は違った形で焦りを抱え込んでいる。僕もだよ」

「社長がですか?」

「うん。僕は周りの好意で会社を潰さずにいられる。他社でもてあました内容を僕のところにまわしてくれるんだ。お世辞にもいい記事にはならない陳腐な内容だけどね。それでも誰かが受け止めないと社会は成り立っていかない。これは僕の持論だけど、作家になりたければノンフィクションという名のフィクションを書く。それができたら僕は作家として一人前だと思うけどな。千春ちゃんは元気でいい。いつも手をあげて「私やります」っていうだろう? もっと社員がいれば千春ちゃんの元気も個性として流れていくんだろうけどね」







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